アジアン家具 エッセイ4〜アジア雑貨 インテリア家具販売 セレクトショップPLENOS(プレノズ)
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・優雅な猫とチェンマイのインジャン
・花ざかりの庭園


花ざかりの庭園、・・・・・Haycock Hotel・・・・・

花ざかりの森、ではなく、 庭園、だった。美しすぎた。

イギリスに憧れ、何でもいいからイギリスに行ってやろうとひたすら思っていた。ちょうど今から12年前その夢はかなえた。

俺はその頃失業中で、それはアメリカ系大手自動車部品メーカーの就職面接のための突然振って沸いた3泊5日のツアーだった。もちろんただだ。1、2泊目はパリでヨーロッパ本部の人事部長と会い、なんとか二次面接を無難にこなし、勤務候補地であるイギリスでの最終面接を受けるべく、ドーバー海峡を横断する。

ヒースロー空港から、そのホテルまで、195cm、105`のクリケットとポロを愛するスコットランド人、イギリス支社のセールスマネージャー、巨漢ジョン・ラーンズは、俺を助手席に乗せて、時速135キロ、モーターウェイをひたすら爆走する。空港のラウンジでの重苦しい最終面接の後にね。レモン水を飲みながらの、1対1の面接は完敗だった。ほとんどラーンズの質問に返答できなかった。最初から奴の迫力に圧倒され、話す英語のスピードにもついていけなかった。これは言い訳にすぎないけど。

今にしてみれば、最初に訪れた南青山の高そうなオフィスでの一次面接は、東京支社長、テキサス人Mr.ナイトの策略、つまりおれを、誰も行きたがらない英国中南部の田舎町へと送りつける策略だったのだ。俺が質問に答える度にやたら『パーフェクト』を連発していた。

そして今俺は、途中一度、あれが 007 ジェームス・ボンドの撮影スタジオだと教えてくれただけで、巨漢ラーンズにほとんど、相手にされず、採用されれば働くことになる、田舎町へと、プジョーの助手席で無言のまま過ぎ去る風景を眺める。採用の可能性は空港のラウンジの席を立った時点ですでにゼロだった。

まったく別の話で、次の機会にでも紹介したいけど、俺は前世、とか、転生を信じている。だから言うけど、ヒースロー空港から巨漢ラーンズのプジョーでモーターウェイに出た瞬間から、抑圧された感情とは裏腹に、俺は突然悟った。この場所は全く違和感がなかった。なつかしかった。ノスタルジーだ。俺はいつの時代か、ここに存在していたのだと確信できた。イギリスは俺のふるさとだった。ちなみに同じ感覚はクアラルンプールでも感じた。

3時間後、モーターウェイからわきへ外れ、小さな町へ入っていく。目的地ピーターボロの町だ。いくらも走らないうちに、石畳の車寄せでラーンズは駐車する。

石作りの表門の中央にある小さな木の扉を押し開けると、左側にカウンターがあり、巨漢ラーンズは受付に何か言うと、明日の朝8時に迎えに来ると俺に言い残し、そのまま帰って行った。俺のことが、気に入らなかったのだと、その時一言言ってくれればよかったんだけどね。まだ日曜の午後3時だと言うのに。日本へ帰ってから、そのことを東京支社長Mr.ナイトへ言うと、さすがの奴も、ラーンズの家にも、ディナーにも招かれなかったのか?と、呆れ顔で言っていた。翌朝、ラーンズの会社に形式上連れて行かれて、工場見学が終わり、俺が、あなたは私を雇う気があるのかと、訊いた答えが、おまえは、good chance をもつ、なんて調子のいいことを言っといて、しっかり、その5日後Mr.ナイトの口を通して不採用にされた。

チェックイン後、俺を部屋に案内してくれたポーター、ジェレミーは、足が不自由だった。引きずっていた。奴が、受付の奥の扉を開けると、客室へ通じる歩道の両脇は、花ざかりの庭園だった。美しすぎる。

ただただ、庭は、きれいだった。色彩のマジックだ。見た者しかわからない。日本にはこのタイプの庭は絶対にない。色と密度とバランスと、そして気品があった。圧倒された。


さっき、検索サイトで見てみたら、あった。そのホテルはあった、今でも。なくなるはずがない。あれほどまでに、暴力的なまでにすばらしいのだから。しかも400年以上続くイングランドの老舗なのだから。それも美しさを継続して。

ポーター、ジェレミーは金髪の、16歳前後くらいの小柄で愛嬌のある可愛い顔をした少年だった。ちなみに俺はゲイじゃないけどね。

ジェレミーは、部屋へ俺を案内すると、持ってきたポットのお湯が熱いと、何度も言っている。部屋の説明が済んでも奴はなかなか立ち去らない。その頃の俺の少ない海外ホテルのチェックイン経験から言っても、奴は必要以上に長く部屋にいた。なぜかはその時わからなかった。奴が部屋から出た後、気づいた。奴にチップを渡していなかった。

ちょうど、TVをつけると、F1ベルギーGPをやっている。まだその時アイルトン.セナは生きていた。セナは4位で、プロストが優勝した。部屋のベッドから外を眺めると、美しすぎる、9月の、花ざかりの庭園、が溢れんばかりに、広がっている。あれは、今でも忘れられない、目を閉じてクリアーに再現できる。そう思う。

6時すぎに飯に行く。BARらしき場所には、正装した長身の白人たちがウィスキーをやっている。どこから来ているのか、地元の人か、よそ者か、俺にはわからない。ウェイターは俺にBARで飲むかと、問いかけるが、正直その輪に加われなかった。巨漢ラーンズの仕打ちはかなり応えていたのだった。俺はえらくナーバスになっていた。

鮭のムニエルと 羊の腎臓の煮込み で、ワインを赤白と2本飲み、ウェイターと、ワインと日本酒と靴と室内での素足と正座の話をして、部屋へ帰って寝る。ワインも飯も俺の気持ちとは裏腹にうまかった。その頃日本でのワインの経験はまだまだだったけど、あのワインは格段にうまかったね。オーストリアのワインだと言っていた。

そして、さらに、翌朝の飯。最高だったことは、このホテルに行かなきゃわからない。実際に味わってもらうしかない。ただ一言、ベーコンエッグの焼き方とその皿の温かさとコーヒーの香りはいまだに俺の中のNo.1だ。

王者の朝飯だ。

ラーンズが迎えに来る。奴が受付で一言言ってチェックアウトを済ませ、木の扉を開けると、表には、あのポーター、ジェレミーが立っている。俺と目が合い、good morning, sir、そう言い、微笑む。

二日酔いの鈍った頭で、今こそ、チップを渡そう。そう思った瞬間、巨漢ラーンズが、昨日のドライブから数えて、通算5言目の会話を発する。よく眠れたか?だって。結局チップは渡せずじまいだった。

ラーンズの工場へ行き、形だけの見学が終わり、いや、終わらされ、俺はヒースローまでの、タクシーに乗せられる。運転手はジムと名乗り、前歯が2本抜けた不潔そうな男だった。 映画【シンプルプラン】に出てくる殺人の共犯者役のめがねの男に似ていた。 そう言えば、工場にいた労働者たちは、普段映画やTVで見るかっこいいイギリス人たちと全く違っていると、しみじみそう思った。白人はみんな整っていると勝手に思っていたのだった。ちなみに、俺には、白人への身体的コンプレックスはない。

俺がこのまま帰るはずないじゃないか、2,3日遊んで帰ろうと、もらっていたエアーチケッットを変更するため、歯抜けの運転手に行き先の変更を告げロンドン市内のブリティシュエアーの店で降ろしてもらう。

俺は告白すると、たまに間が抜けたことを、しでかす。その時もそうだった。チケットカウンターで突然気づいた。

財布がない。ふと甦る。タクシーから降りる時、 支払いをしようと、財布を取り出し、歯抜けに支払いは巨漢ラーンズの会社持ちだと言われ、せめてチップは、と思い、財布から2ポンド抜いて、奴に渡そうと手を伸ばすと、後ろの車からクラクションを鳴らされ、 あせってシートの脇に財布を置いたまま鞄に手をかけ、ドアをあけ、飛び降りたのではではなかったか? 

カウンターで電話を借り、ラーンズの工場へ電話し、タクシー会社へ確認を入れてもらう。 隣のカフェで気が遠くなるほどの3時間が経過し、もう一度電話を入れる。が、 歯抜けのジムは、そんなものはなかった、と言ったそうだ。無念すぎる。どうしてくれる。ピカデリーサーカスのパブでハーフパイントのビールも飲めないのか、ハロッズに行って3万5千円するブリッグの傘も買えないのか。カムデンの伝説のライブハウス、バーフライにも行けないのか。

警察に行ってもしょうがないし、 さらに数時間待って再び タクシー会社に連絡したところで・・・・どうなる?

そのまま、ポケットの小銭でバスに乗り、ロンドン市内滞在時間 4時間 で、空港へ行く。

おそらく、あの財布の中身は、彼のサラリー2ヶ月分くらいはあったと思うよ。コングラチュレーション、歯抜けのジム。

金は天下の回り物、今でも、これが俺の、ポリシーなのさ。




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